大阪地方裁判所 昭和44年(ワ)6305号 判決
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〔判決理由〕(予備的請求について)
二、正が昭和三九年ごろから原告に雇傭されていたこと、本件自動車が原告においてその営業用に購入したものであることはいずれも前記のとおりであるところ、原告は本件自動車を正に貸与して仕事させていたものであると主張し、被告はこれを争うので、次にこの点について検討するに、<証拠>を総合すると、次のような事実を認めることができる。
(一) 原告は「マルマン百貨店」の名称により依料品等の月賦販売業を営んでいる者であるが、旧制中学での後輩に当る正が失職して困つていたところから、昭和三九年ごろより同人を傭つて右依料品の月賦販売の仕事に従事させ、主として外廻りの外交の仕事を担当させるようになつた。
(二) ところで、原告の購入した本件自動車は、当初より、外廻りの仕事を担当していた正がほとんど専属的にこれを使用し、前記認定のような事情でその使用者名義を正名義にしていたこともあつて、通勤の用にもこれを使用し、仕事を終えたのちには自宅までこれに乗つて帰るような状態であつて、正が原告方を退職するまでそのような状態が続いた。
以上のような事実が認められているのであつて、右認定に反する証拠は見当らない。しかして、右のような事実関係がら考えると、正による本件自動車の使用関係は、使用貸借ないしは賃貸借のような典型契約関係でないことはいうまでもないけれども、右自動車に対する占有支配関係がかなりの程度まで正に移譲されていたとみられる以上、これをもつて工場労働者の機械器具等に対する関係のごときものと同視することは正当でなく、当該職務の担当ないし雇傭関係の存続を前提として雇傭主からその占有使用を許容されている関係とみるのが相当であり、したがつて、右雇傭関係が終了した場合には、正としては当然にこれを雇傭主である原告に返還すべき義務を負うような法律関係にあつたものといわなければならない。
三、しかるところ、<証拠>によれば、正が昭和四二年四月ごろ原告方を退職して右両名間の雇傭関係が終了したこと、右退職に際して原告から正に対し本件自動車の返還を強く要求したが、正がそれを自己所有のものであると称してこれに応じようとしなかつたことがそれぞれ認められるとともに、正が同年九月一〇日ごろ大阪市阿倍野区昭和町において事故を起こし、右自動車を大破させてその返還を不能ならしめるにいたつたことは当事者間に争いのないところであるから、右事故が正の責に帰すべきからざる事由によるものであるとの主張立証のない以上、正は原告に対し、右返還不能によつて原告のこうむつた損害の賠償をなすべき義務を負担するにいたつたものといわなければならない。
四、そこで、右損害の額について考えるに、物の返還不能による損害の額は、原則として、返還不能となつた当時におけるその物の時価をもつて算定するのを相当とするところ、原告は、月賦手数料を含む本件自動車の売渡代金額をもつて取得価格とし、これに「減価償却資産の耐用年数に関する省令」による算式を適用して得た経過年数二年の時の右自動車の評価額が返還不能時における時価であると主張しているけれども、もともと減価償却は、固定資産の取得に要した費用を全額、これを取得した会計年度における必要経費とすることなく、その固定資産を使用する各会計期間の費用として配分することにより、課税標準たる所得の計算をより合理的ならしめるための方法にすぎないのであるから、この方法によつて算出される評価額が必ずしも当該固定資産の時価と一致するものでないことは明らかであつて、本件の場合においても、右返還不能時における本件自動車の時価は、被告主張のとおり、その使用の頻度、走行距離、使用の期間、事故歴その他の要素を斟酌のうえ個別的に算定さるべきが本来であるといわなければならない。しかしながら、そのような方法による中古自動車の時価の評価はかなり困難であり、ことに本件の場合のごとくすでに事故によつて大破してしまつた自動車の事故直前における時価の正確な個別的評価は不可能に近いといわざるをえないのであつて、かくては、このような自動車の返還不能による損害の賠償請求は、損害額の算定の困難の故に事実上その途を閉ざされることとなるよりほかなく、きわめて不都合な結果を生ずることを避けることができないのである。このように考えてくると、通常の場合に比し若干の不正確さが伴うとしても、他に特段の事情について主張立証のない本件のような場合、原告の主張する減価償却の方法による評価額も一応蓋然性のある額であると見、ただその蓋然性に若干の疑いが持たれるところから、被害者側にとつて控え目な算定方法を採用するとともに、新車から中古車になると同時にその価格が急落する取引界の実情その他の事情をも考慮して、これより相当額を減額した金額をもつて右の時価とするのが事案の解決上最も妥当な方法であるといわざるをえないのである。
そこで、右のような観点から本件の損害額について検討するに、<証拠>によると、本件自動車は昭和四〇年一〇月中ごろ新車として原告より売り渡されたものであるが、その車輛代金は六〇万円、受取月賦手数料(代金の割賦弁済のための利息等)は四万二、二五〇円であることが認められるとともに、右自動車が事故によつて大破し、返還不能となつたのが同四二年九月一〇日ごろのことであることは前記のとおりであるから、これを原告主張の省令による算式に当てはめて計算すると、次のとおり、その評価額は二七万八、二五六円となる(ただし、控え目な算定方法を採るため、取得価格は六〇万円、経過年数は二年とした。)。
600,000×(1−0.319)2=278,256
(円以下切捨)
しかして、右評価額から、前記取引界の実情や正がこれを営業用に使用していたこと、正の運転操作がかなり乱暴で時折事故を起こしていたこと(この点は原被告各本人尋問の結果からうかがわれる)などの諸事情を考慮して金七万八、二五六円を減額した金二〇万円が右返還不能時における本件自動車の時価であると評価するのが相当であり、したがつて、他に特段の事情の認められない本件の場合、右金額をもつて正の賠償すべき損害の額とすべきである。
(藤原弘道)